大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)1282号 判決

被告人 川内和憲

〔抄 録〕

職権をもつて調査するに、原判決は、被告人の本件過失についてつぎのように認定判示している。すなわち、被告人は、東京都公安委員会が道路標識により規制した最高速度(四〇キロメートル毎時)を守るはもちろん、同方向に進行中の車両を追越すにあたつては、同車の前方の交通の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で、同方向に先行中の普通貨物自動車の前方の安全を確認しないまま、漫然道路右側部分に進出して同車の右側方を追越そうとした過失により、被害者が進路前方の交差点を左方から右方に向かいかけ足で横断しているのをその約三三メートル手前で認め、ハンドルを右に切るとともに急制動の措置をとつたが及ばず、自車左前部を同人に衝突させて本件事故を惹起したというのである。

しかしながら、浜野佐江子の司法警察員に対する供述調書、被告人の原審公判廷における供述およびその捜査官に対する各供述調書等によれば、被害者浜野佐江子は被告人車の進路左側の道路沿いにある菓子屋で菓子を買い、本件道路を同店の直前で、同行の友達に追随して小走りで横断していて、本件事故に遭つたものであり、他方、被告人は、本件事故現場の一〇〇メートル位手前から追越しを始め、先行車の後方からセンターラインを越えて道路の反対側に出て、更に同車の右斜後方約四・八メートル位に進出したとき、左斜前方約三三メートル先を横断中の被害者を発見したというのである。

右の経過に徴すれば、被害者らが道路沿いの菓子屋を出てから、その直前で小走りに本件道路を横断しはじめ、被告人がこれを発見するに至るまでの時間は極く僅かであつたことが認められるから、被害者らは、被告人が追越しを開始したのちに右菓子屋を出て横断をはじめたことが十分考えられる。そうだとすれば、被告人が、追越し開始直前に前方を見たとしても、その際にはまだ被害者らを発見することはできなかつた筈であり、その後は先行車のために前方左側部分の視界が遮ぎられていたというのであるから、これに気付くことができなかつたのも、やむをえなかつたものというべきである。

しかも、司法警察員作成の実況見分調書等によれば、本件事故現場の状況は、自動車の運転者が、同所が交差点であることに、相当手前で気付くことはかなり困難な場所であり、当時は横断歩道も設置されていなかつたのであるから、被告人は、追越しを差し控えるべき業務上の注意義務に違反したものというに足りないのは勿論、前段説示の本件事故直前の事情に徴すれば、原判示のように、追越しにあたつて、被告人に、先行車の前方の交通の安全を確認しつつ進行すべき注意義務を怠つた過失があつたとは認められず、原判決はこの点において事実を誤認したものというべきである。

(三井 石橋 四ツ谷)

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